大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和57年(ネ)2256号 判決 1983年9月29日

主文

原判決を取消す。

本件を大阪地方裁判所に差戻す。

事実

第一  申立

控訴人は「原判決を取消す。昭和四一年一月八日付大阪市港区長に対する届出による控訴人と亡前田松太郎、亡前田モトとの協議離縁は無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

被控訴人補助参加人らは「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

第二  主張及び証拠関係

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一  控訴人は、次のとおり主張した。

1  昭和三二年五月一五日届出の亡松太郎・モト夫婦と控訴人との協議離縁(以下「第一回離縁」という。)、昭和三三年八月二九日届出の右夫婦と控訴人との養子縁組(以下「第二回縁組」という。)、昭和四一年一月八日届出の右夫婦と控訴人との協議離縁(以下「第二回離縁」という。)の三つの届出は、いずれも亡松太郎が独断で控訴人不知の間に手続したものである。原判決のように第二回離縁の前提となる第二回縁組が無効であるからといつて第二回離縁の無効について判断しないのであれば、控訴人としては、右第二回縁組の前提となる第一回離縁がそもそも亡松太郎の独断でなされたもので無効であることを主張する。

2  被控訴人補助参加人らの追認の主張は否認する。

二  被控訴人補助参加人は、次のとおり主張した。

1  当審における控訴人の主張は争う。

2  第一回離縁が仮に無効であるとしても、控訴人は第二回縁組届出の日に右離縁を追認した。

三  新たな証拠関係(省略)

理由

一  真正な公文書と認める甲第二、第三、第七号証、丙第四、第五号証、原審証人神野フジエ、同神野顕文の各証言、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果、甲第一号証の存在並びに弁論の全趣旨によれば次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

1  控訴人は、伯母亡モトとその夫亡松太郎の夫婦に子がなかつたことから、小学校一年生の頃から亡松太郎・モト夫婦の許に引取られ事実上の養子として生活を共にしていたが、当時一五歳未満であつたので、同夫婦と控訴人の法定代理人である実母神野フジエとが家庭裁判所の許可を得たうえ、控訴人を同夫婦の養子とする旨の縁組をなし、昭和二七年八月二一日右縁組の届出がされた。

2  控訴人は、中学三年生となつた昭和三〇年頃、同夫婦と別居し、実方である神野フジエの許に帰され、昭和三二年五月一五日同夫婦と控訴人間の協議離縁の届出がなされたが、当時一六歳の控訴人は右第一回離縁につき了解を求められたことはなく、右届出は控訴人不知の間になされた。

3  控訴人が高校三年生となつた昭和三三年八月二九日、控訴人が同夫婦の養子となる旨の縁組の届出がなされたが、右第二回縁組については控訴人の長兄神野顕文が了解していたものの、当時一八歳であつた控訴人は右縁組につき了解を求められたことはなく、右届出も控訴人不知の間になされた。

4  控訴人は、昭和四〇年五月五日木村正博と結婚式を挙げ、同年七月二一日婚姻届をし、爾来同人と夫婦として生活している。

5  昭和四一年一月八日亡松太郎夫婦と控訴人間の協議離縁の届出がなされた。

6  前記第一回離縁、第二回縁組はいずれも亡松太郎の意思によつて手続がなされたものである。

二  以上の事実によれば、控訴人と亡前田松太郎、同モト夫婦との間の当初の養子縁組(昭和二七年八月二一日届出)は有効なものというべきであるが、第一回離縁は、既に年令一六歳に達し身分行為能力(民法八一一条二項により一五歳)を有する控訴人の意思に基づかないことが明白であるから、離縁をする意思がないものとして無効というべきである。

しかして、第二回縁組は右第一回離縁が有効であることを前提とするから、第一回離縁が無効であれば、その前提を欠き、第二回縁組も当然無効となる筋合である。この点に関し、被控訴人補助参加人らは、第一回離縁が無効であるとしても、控訴人は第二回縁組届出の日にこれを追認した旨主張するけれども、前記認定のとおり第二回縁組につき控訴人は了解を求められたことがなく、その届出も控訴人不知の間になされ、したがつて控訴人の意思に基づかないものと認められる以上、第二回縁組届出によつて控訴人が第一回離縁を追認する余地はないし、他に右追認の事実を肯認すべき証拠はないから、右主張は失当である。(なお、当裁判所は、縁組や離縁の無効は必ずしも縁組無効訴訟や離縁無効訴訟の訴訟物としての場合に限らず、その前提問題としてでも、主張しかつ判断しうるものとの見解をとるものである。)

そうすると、第二回離縁が控訴人主張のように無効であれば、控訴人と亡前田松太郎、同モト夫婦との間の当初の縁組(昭和二七年八月二一日届出)にもとずく養親子関係は有効に存続する筋合となるから、控訴人は第二回離縁の無効確認を求める法的利益を有するものというべきである。

三  以上のとおりであるから、第二回離縁の無効確認を求める控訴人の訴えを訴えの利益を欠き不適法であるとして却下した原判決は失当である。

四  よつて、原判決を取消し、民事訴訟法三八八条に従い本件を大阪地方裁判所に差戻すこととし、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例